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2012年1 月27日 (金曜日)

感染症は水際対策で海外からの侵入を防ぎ得ない

じょうMRIC メルマガより転載

  □ 『新型インフルエンザ対策のための法制のたたき台(案)』に
     対するパブリックコメント

      ■ 木村 知

━━━━━━━━━━━━━━
 ■from MRIC
━━━━━━━━━━━━━━

今月になって、内閣官房新型インフルエンザ等対策室より、「新型インフルエンザ対策のための法制のたたき台(案)」が公表された。

http://www.cas.go.jp/jp/seisaku/ful/dai48/siryou.pdf

この法制化の趣旨として、「新型インフルエンザの脅威から国民の生命及び健康を保護し、国民生活及び国民経済の安定を確保するため」と、その序文に書かれているが、その観点から全文を読んでいくと、いくつかの問題点が浮かび上がってきたので、現場で実際にインフルエンザ治療を行ってきた臨床医の立場から、数点指摘しておきたい。

まず、「4新型インフルエンザ対策の実施に係る体制等 5.海外発生時の水際対策の適確な実施及び国内発生時の初動の強化」について述べる。

ここに「海外発生時の水際対策の適確な実施」との記載があるが、平成21年、わが国において「新型インフルエンザ(A/H1N1)」対策として行われた空港等における水際対策について、そもそもその実効性が適確に評価されていないにも関わらず、今回どのようにして適確に実施し得るのか、ということに強い疑問を抱いている。

水際対策で対応可能な疾患は、潜伏期間が無く、特別な検査を必要とせずともごく簡単に正確な確定診断が下せるか、逆に非常に精度の高い迅速検査で診断が確定出来るものに限られる。

つまり、インフルエンザはもとより、ほとんどの感染症は水際対策によって海外からの侵入を防ぎ得ないということは、臨床医の常識である。実際、前回の新型インフルエンザ流行も水際対策によって全く防ぐことは出来なかったうえに、そもそも水際対策を講じる以前に感染者が入国していたことは、現時点で明らかになっている。

多くの人的資源、物的資源、多額の費用を投入したとしても、それに見合う効用が全く期待出来ないばかりか、ただ貴重な資源を浪費するばかりの愚策であり、前回の教訓が全く活かされていない今回の案には、ただ呆れるばかりである。

さらに、前回の水際対策において行われた、「濃厚接触者」と呼ばれた「感染容疑者」の監禁は、著しくその人権を侵害し、海外からもその「非人道的施策」が非難されたことは記憶に新しい。

そしてこの政府方針により、その後国内で次々に感染者が発生した時点においても、感染者をスティグマとして扱う「風潮」が、すっかり国民の間に刷り込まれ、それは感染終息時期まで続くことになった。

具体的には、企業、学校等が、その独自のルールを作成し、家族に感染者が発生した場合の出勤や登校を禁じたり、発症していない家族にまでも「念のため」の医療機関受診を義務づけたり、ということが行われた。

これにより、多くの医療機関にインフルエンザ感染を心配した、多くの「健常者」が殺到する、という異常事態が発生し、さらなる感染拡大のリスクが増幅された。

次に、この問題とも関連することであるが、「5新型インフルエンザ緊急事態への対応 2.緊急事態の措置 (1)不要不急の外出の自粛の要請、学校、集会等の制限等の要請及び指示」について述べる。

学校等については、現時点でも、インフルエンザに限らず感染性疾患が流行し、一定の罹患者が発生した場合には、学級もしくは学校閉鎖等が行われているため、この項目に「学校」が入れられていることに違和感を覚えるとともに、国民の自由な権利を著しく侵害する可能性のある「集会」の自粛要請という規制が、「新型インフルエンザ対策」として行政により行われることの妥当性について、十二分に熟議されるべきと考える。

「集会」の規制が、感染拡大防止に寄与するとの根拠は不明確であるばかりか、仮に「集会」を規制するのであれば、不特定多数の人びとが集う企業活動を含めた全ての社会活動も規制対象とせねばならないはずである。

このことから、敢えて「集会」のみを限定例示して規制しようとする一方、その他の社会活動に一切言及しないこの項目自体に、矛盾があると考えられる。

さらに、「集会」に参加することによる感染拡大が懸念されるというのであれば、それよりも感染拡大が懸念される「場所」について言及される必要がある。

それは、非感染者である「健常者」が新たに感染する危険性が一番高い場所、つまりインフルエンザ感染者が多く集まる場所、すなわち「医療機関」である。

先にも述べたが、前回の新型インフルエンザ流行時、メディアも教育機関も企業も、学会さえも、「早期受診」を勧奨した。文科省に至っては、ご丁寧にも文部科学大臣より、「せきや熱(ねつ)が出(で)るなど、かぜやインフルエンザにかかったかなと思(おも)ったら、すぐにお医者(いしゃ)さんに行(い)ってください」とのメッセージが、子供たち、保護者、学校関係者に宛てて発信された。

これにより、インフルエンザ感染を心配した多くの「健常者」や軽微な感冒の患者がインフルエンザ感染者で溢れる医療機関に誘導され殺到し、実際多くの「二次感染」が引き起こされることとなった。

行政が講じるべきは、これらの事態が引き起こされぬよう、適確な情報提供を行うことであり、一方、行政が断じて講じてならないのは、医療機関に過度な負担と疲弊と混乱とをもたらす通達、通知を安易に発令することである。

以上の観点から、「 新型インフルエンザの脅威から国民の生命及び健康を保護し、国民生活及び国民経済の安定を確保するため」、「基本的人権の尊重及び国際的な連携をすべきことについて定める」と謳っていながら、国民の生命、健康、さらに生活や経済の安定はおろか、基本的人権まで蹂躙する恐れさえも孕んだ、今回の「新型インフルエンザ対策のための法制のたたき台(案)」は、根本的見直しがなされるか、もしくは廃案とされるべきものと考える。
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木村 知(きむら とも)

有限会社T&Jメディカル・ソリューションズ代表取締役
AFP(日本FP協会認定)
医学博士

1968年カナダ国オタワ生まれ。

大学病院で一般消化器外科医として診療しつつクリニカルパスなど医療現場でのクオリティマネージメントにつき研究中、2004年大学側の意向を受け退職。

以後、「総合臨床医」として「年中無休クリニック」を中心に地域医療に携わるかたわら、看護師向け書籍の監修など執筆活動を行う。

AFP認定者として医療現場でのミクロな視点から医療経済についても研究中。

著書に「医者とラーメン屋-『本当に満足できる病院』の新常識」(文芸社)。

 


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