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2010年9 月 2日 (木曜日)

連載 「深化する60代」 続編 (2) 山本嗣信

6a0120a6885bf1970b0133f0bb32e9970b-800wi[1] ― 60代までの歩み ―

 

東京・千代田区平川町の都市センタービルの地下1階に公益事業新聞社があった。

真冬にワイシャツ姿で出社した営業マンの大野さんは、同僚によると競馬にのめり込んでいたのだ。

懲りない男である、再びワイシャツ姿で、「お早うございます」とやってきた。

その日、広瀬社長は遅い出社であった。

大野さんの姿を見かねた編集長の水田さんが、「その姿じゃ、広告取れないよ。2度と競馬はやらない! と誓えるか?誓うなら1万円貸そう」と助け舟を出す。

大野さんは、ずれ落ちたメガネを指先で押し上げて、「誓います!」と編集長のデスク前へ進み出た。

1万円札をズボンのポケットに入れながら、「地獄に仏」とニンマリする。

「本当の地獄に落ちないでね」

社長秘書兼経理の澤田さんは、大野さんに侮蔑の目を向けた。

 

結局、大野さんはその日を限りに、行方不明となる。

同僚がアパートへ訪ねて行って明らかになったのであるが、家賃を半年も払っていなかった。

大野さんは6年余勤務した会社とアパートから逃避したのである。

「金があればなあ・・・儲けられるのになあ・・・」が口癖であった。

大野さんが消えて、私は公益事業新聞社からスチール製の衝立の向う側の病院新聞社の社員となった。

つまり、広瀬社長は二つの会社を経営していたのである。

私の代わりに、病院新聞社に居た大島さんが、公益事業新聞社に配置転換となる。

人の運命は異なものである。

今、想うに、大野さんが逃避しなければ、「医療ジャーナリスト山本」は存在しなかったであろう。

「山本君を厚生省日比谷クラブへ入会させます」

堀部編集長は広瀬社長に言う。

校正のため赤ペンを握っていた広瀬社長は、「3人も記者クラブ員にする必要はない」と素気ない返事である。

「実は五島君と相談したんですが、広告が少ないので、五島君が営業に転向します。山本君を記者にします」

「そうか。それなら、いいだろう。山本君頑張れ。分かったな。頷くだけか。オイ、返事をしろ! バカ者が!」

雷が落ちた。

京都帝国大学卒、元自治省官僚としての威厳を見せつけた。


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